最高裁判所第三小法廷 昭和57年(オ)374号 判決 1985年4月09日
上告人
小山誠五郎
右訴訟代理人弁護士
飯田隆
被上告人
徳田外紀子
被上告人
徳田憲道
被上告人
徳田良治
被上告人
徳田修
右四名訴訟代理人弁護士
梨木作次郎
菅野昭夫
加藤喜一
鳥毛美範
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人飯田隆の上告理由第一点及び第二点について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、肯認するに足り、右確定事実によれば、(一) 本件注射と亡徳田光生の死亡との間には因果関係があり、(二) チトクロームCの注射については、それがショック症状を起こしやすい薬剤であり、右症状の発現の危険のある者を識別するには、所論の皮膚反応による過敏性試験は不確実、不十分なものであって、更に医師による本人及び近親者のアレルギー体質に関する適切な問診が必要不可欠であるということが右死亡事故発生当時の臨床医の間で一般的に認められていた、というのである。したがって、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、右薬剤の能書等に使用上の注意事項として、本人又は近親者がアレルギー体質を有する場合には慎重に投与すべき旨が記載されていたにすぎないとしても、医師たる上告人としては、ショック症状発現の危険のある者に対しては右薬剤の注射を中止すべきであり、また、かかる問診をしないで、前記過敏性試験の陰性の結果が出たことから直ちに亡光生に対して本件注射をしたことに上告人の医療上の過失があるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は右と異なる見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同第三点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、肯認することができないものではなく、その過程に所論の違法はない。諭旨は、ひっきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 安岡満彦 長島敦)